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大阪地方裁判所 昭和47年(ワ)2448号 判決 1976年10月27日

原告

(亡鹿田幸太郎訴訟承継人)

鹿田勝

右訴訟代理人

上坂明

外二名

被告

金原郁子こと

劉乙任

右訴訟代理人

大社哲緒

外一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

一、請求の趣旨

被告は原告に対し、別紙目録(二)記載の建物(以下本件建物という)を収去して、同目録(一)記載の土地(以下本件土地という)を明渡し、かつ昭和四七年五月一七日以降右土地明渡済みに至るまで一か月金三、八〇〇円の割合による金員を支払え。

訴訟費用は、被告の負担とする。

仮執行の宣言。

二、請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

三、請求原因

(一)  本件土地は、原告先代亡鹿田幸太郎の所有であつたが、昭和四七年八月一四日同人の死亡により、相続人として、原告が承継取得したものであり、被告は右地上に、本件建物を所有して本件土地を占有している。

(二)  よつて被告に対し、右土地所有権に基き、本件建物の収去、土地明渡並びに、昭和四七年五月一七日以降右土地明渡済みに至るまで一か月金三、八〇〇円の割合による賃料相当損害金の支払を求めるため本訴におよぶ。

(三)  なお、被告の夫訴外金原米男こと金鎮坤は、昭和三二年一月、本件土地上の五戸一棟の建物のうち、別紙図面記載の建物を買いうけ、亡幸太郎は、同人にその敷地部分を賃貸し、同人は被告とともに同建物に居住してアイスキヤンデーの製造販売業を営んでいたものであるところ同年七月頃同人は無断で、本件建物の東隣の別紙図面記載の建物を買受け、その敷地賃借権の無断譲渡をうけた。そこで、亡幸太郎は、金に対し厳重な抗議を申入れ、今後は勝手にこのようなことはしないでほしいと念を押したうえ、やむなく事後承諾したところ、同四二年四月頃、金はまたもや本件建物の西隣別紙図面記載の建物をも買受け、無断で敷地賃借権の譲渡をうけるという暴挙に出た。亡幸太郎としては、今度はどうしても許すわけにいかないので、建物の収去と土地明渡を求めたが、金は、頑として応ぜず、交渉に当つた亡幸太郎の妻鹿田リウをうまく口車に乗せ、昭和四二年四月分から同四七年三月分までの地代を予め一括して支払うという条件で、事後承諾せしめた。その際リウは、今後このような勝手な措置は、絶対にしてくれては困る、もしこのようなことがあつたら土地を明渡してもらう旨厳重に金夫婦に申渡し、同夫婦もこれを了承していたのである。従前このような事情があるにも拘らず、被告は敢えて今回無断賃借権譲受という暴挙を行つたのであつて、亡幸太郎は昭和四七年四月二二日到達の書面で賃借権の譲渡、転貸は承諾しかねる旨を伝え、その妻リウにおいても、本件土地を一か月につき金三、八〇〇円の賃料で賃借していた前借地人玉木三三に対して再三にわたつて本件建物を亡幸太郎において買取るから他人に譲渡してもらつては困る旨申渡していたのに、訴外玉木は、被告夫婦と共謀のうえ、一方的に亡幸太部に対し金二八〇万円以上というような法外な値段をふつかけ、その承諾を得るための努力をせずに、本件建物の売買、土地賃借権譲渡を敢行したのであつて、その背信性は、極めて強度であるといわなければならないから、亡幸太郎は、昭和四七年五月一六日の内容証明郵便をもつて、訴外玉木との間の本件土地賃貸借契約を解除する旨の意思表示をなした。

(四)  被告の夫金は、本件建物以外にも近隣に多数の土地、家屋を所有していて、本件建物を使用すべき必要がない。もつとも、亡幸太郎も本件土地以外にいくつか土地建物を所有していたが、遺産相続人が八人もいるため、遺産分割すると一人当りの承継分はわずかとなり、原告は、昭和四八年二月一三日の遺産分割協議により本件土地を含む大阪市城東区今福西二丁目一一六番田一〇二平方メートルを取得し、同五〇年三月一四日所有権取得登記を経由したので本件土地は将来自営鋳造工場の事務所を設置して使用する予定である。

四、請求原因に対する認否および被告の主張<以下省略>

理由

一請求原因(一)の事実並びに、本件土地を一か月につき金三、八〇〇円の賃料で賃借していた前借地人玉木三三は、本件建物および土地賃借権を他に譲渡するに先立ち、賃貸人である亡鹿田幸太郎の承諾を求めたところ、賃貸人側からは、他への譲渡には反対で自己の方が譲渡をうけたい旨要望したが、譲渡価額の点で折合いがつかない間に、玉木は、賃貸人の承諾がないのに、本件土地の賃借権を地上建物とともに、被告に譲渡した事実は、当事者間に争いがないところ、<証拠>によれば、亡幸太郎は、前記玉木に対し昭和四七年四月二一日受付、その頃到達の内容証明郵便をもつて賃貸人側の前記要望を告知したが、同人がこれに応じないで、同年五月一二日、本件建物並びに本件土地賃借権を代金二六〇万円で被告に譲渡し、代金の授受を了したため、亡幸太郎は、同月一五日受付翌日到達の内容証明郵便をもつて玉木との間の土地賃貸借契約解除の意思表示をなし、被告は、同月一八日受付をもつて、本件建物の所有権移転登記を経由した事実を認めることができ、他に右認定に反する証拠はない。

二、被告は、本件建物のような建売建物には、予め土地賃借権の譲渡、転貸につき地主の包括的な承諾があつた旨を主張するので検討するに、本件建物が、当初建売建物として訴外豊川石文によつて建築、販売された事実は、証人玉木三三の証言によつて明らかであるけれども、土地賃借権の譲渡につき地主から予め包括的な承諾があつたとの点は、これを認めるに足る証拠がないので、被告の右主張は採用することができない。

三、被告は、更に、本件土地賃借権の譲渡には、賃貸借の信頼関係を破かいするような背信性がなく、亡幸太郎の前記承諾の拒否は、権利の濫用にあたると主張するので案ずるに、被告の夫訴外金鎮坤が、本件建物の東側、別紙図面記載の建物二戸および、西側、同図面記載の建物一戸を順次買い受け、亡幸太郎から各敷地部分を賃借し、同建物において、被告夫婦がアイスキヤンデーの製造販売業を営んでいる事実は、当事者間に争いのないところ、<人証>によれば、前賃借人玉木三三は、本件建物および敷地賃借権を被告に譲渡するに先立ち、被告主張のとおり電話あるいは口頭で数回にわたり原告側に譲渡の承諾を求め、承諾料の支払、原告側への建物の譲渡をも申出たが、価額の点で遂に折合いがつかなかつたこと、被告夫婦は、前記の建物に冷蔵庫を設置し、これとの建物間を訴外玉木の承諾を得て本件建物の軒下を通してパイプで連結して営業しているため、営業上かねてから本件建物の取得を希望しており、訴外玉木としても、被告ならその夫が亡幸太郎から土地を賃借していて、これまで格別の問題を起したことがなく、賃料の支払も確実で、原告側からも納得を得られるものと信じて本件建物を被告に譲渡した事実が認められ、他に右認定を覆えすような証拠はなく、右認定事実に徴すると、たとい、被告の夫である訴外金鎮坤の建物取得につき以前、地主側が若干の難色を示したことがあり、かつ被告に対する本件建物の敷地賃借権譲渡につき地主の承諾がなかつたとしても、本件土地賃借権譲渡には、賃貸借における相互の信頼関係を破かいするような背信性があるとはいえないから、原告は、右賃借権譲渡の承諾を拒否することは許されないため賃借権の無断譲渡を理由として原告のなした譲渡人たる前賃借人に対する賃貸借契約解除の意思表示は無効で譲受人である被告は、適法に、本件建物の敷地の賃借権を承継取得したものと認めるのが相当である。

もつとも、借地法九条ノ二第一項によれば、借地権者が賃借権の目的たる土地の上に存する建物を第三者に譲渡せんとする場合に、第三者の賃借権取得が賃貸人に不利となるおそれがないのに賃貸人が賃借権譲渡を承諾しないときは、借地権者は、裁判所に賃貸人の承諾に代る許可の付与を申立てて、賃借権の譲渡を条件とする借地条件の変更を命ずる裁判もしくは財産上の給付に係る許可をうけることができるのに拘らず、賃借人において、右申立てをすることもなく土地賃借権を他に譲渡するときは、賃貸人の有する前記財産上の利益・給付の受給権ないし借地法九条ノ二第三項に定める優先買取権などの自益防禦の権利を侵害するものといわなければならないから、特段の事情のない限り、原則として、賃貸人は、賃借権の譲渡を承諾すべき義務を負わないものと解すべきところ、これを本件についてみるに、証人玉木三三の証言によれば、賃借人玉木は、歯科医であつて、本件建物を歯科医院の分院として使用していたが、養子玉木久寿が、昭和四七年四月私立大阪歯科大学に入学するにつき入学以前の段階で入学金一、〇〇〇万円を要するので、その資金調達を急いでいた事実が認められ、弁論の全趣旨によれば借地法九条ノ二第一項の申立てによつては、資金の調達が間に合わなかつたことが推測されないではなく、一方原告側としても、証人玉木三三の証言により認められるとおり、本件建物の買受けには、僅かに代金三〇万円を提示したにとどまり、賃借人玉木からたびたび再考を促されながら頑として応ずることなく、遂にそれ以上の金額を提示しなかつた事実に徴すれば、原告側は、理由はともあれ、この機会に、一般の経済上の常識に照らして到底承認されそうもない、不当に安価な価額で建物および敷地賃借権を取得しようとしたものとみる外はなく、本件建物および敷地賃借権の取得について格別の熱意があつたとも解し難く、弁論の全趣旨により原告主張の自己使用の必要性に関する事情が主として原告の遺産相続後の事情であると窮われる点よりすれば、本件は、賃借人において、借地法九条ノ二第一項の申立てをしなくても、賃貸人において、賃借権譲渡の承諾を信義則上拒絶できない特段の事情の存する場合に該当するといわなければならない。

四そうすると、原告に対し、本件土地上の賃借権の取得を主張する被告の抗弁は理由があるから、被告に対し土地所有権に基き本件建物の収去並びに賃料相当損害金の支払を求める原告の本訴請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(仲江利政)

別紙<省略>

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